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山上弘司 – 創業120年「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

然真鯛の漁獲高日本一を誇る糸島にある、船越漁港。この船越地区に1897年創業の北伊醤油があります。120年以上続いてきた老舗醤油店が掲げるのは、化学調味料などを一切使わない「本物の醤油」づくり。地域に愛される看板を背負う6代目の山上弘司さんは、醤油のしぼりカスを大豆畑の肥料として再利用するなど、地球環境に目を向けた活動にも積極的に取り組んでいます。

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

昔から家業を継ごうと思っていたのですか?

小学生のころは「醤油屋の息子」と呼ばれるのが嫌だったんですけど、毎年正月には、おばあちゃんに「醤油屋さんをやります」と言わないとお年玉をもらえなかったんです(笑)。だから幼心に、将来は醤油づくりをしなきゃいけないのかなぁ、と思っていました。

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

醤油づくりを始めたのはいつからですか?

27歳です。大学卒業後、調理師の専門学校に入り、大阪の懐石料理店で料理人をしていました。他の醤油屋で修行するのが一般的だと思うのですが、当時、「醤油屋になった際、誰にうちの醤油のことを説明するのか」と考えました。それは「料理に携わる人」だと思い、料理人の道を選びました。おかげで、卵かけ用だったり、ラーメンのタレ用だったりと、飲食店や個人向けに、加工醤油のラインナップも色々と開発できました。糸島のカキ小屋にも、その店に合わせた独自の醤油やポン酢を卸しています。

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

醤油づくりは大変ですか?

本当に大変です…。醤油づくりは大豆、塩、小麦の原料にこうじ菌をまぜ、発酵・熟成させて「醤油もろみ」をつくります。そのもろみをしぼったものが醤油です。大手メーカーは自動化された工場で、わずか半年ぐらいで醤油を大量生産するんですが、うちは昔ながらの手づくりで、2年半~4年半も杉樽でもろみを熟成・発酵させる少量生産です。調味料など加えず伝統製法を貫いた「本醸造醤油」づくりは、今や絶滅寸前です。

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

機械化して楽に大量生産したいとは思いませんでしたか?

27歳で蔵(家業)に帰ってきた当初は、最新テクノロジーの機械を導入して、生産性を上げて、儲けてやろうと燃えてました。やり手の若手経営者だと称賛されたかったんです(笑)。
そんな時、糸島の先輩経営者と酒を飲んだ際に言われたんです。「お前のところの魅力って、工業製品みたいな醤油じゃないだろう。先人が守ってきた製法を続けていくことだろう」と。血気盛んだった若造の鼻っ柱を折られましたが、そこから伝統製法へと軸が定まりました。
もちろん、職人の負担を減らすために機械化してもいい部分はしています。でも非効率だと思う作業でも、意味のあることは残しています。

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

非効率な作業とは何ですか?

醤油づくりからちょっと外れますが、例えば、醤油の空き瓶回収です。瓶を洗って、再び使う。時間も人件費もかかります。糸島の醤油蔵で瓶を再利用しているのは、北伊醤油だけです。同業者から「大変じゃない?」と驚かれます。でも、今はSDGsが世界的なテーマ。ごみを減らせて、地球環境にちょっとでも貢献できるなら、多少煩わしくても続けたいと思っています。

環境問題にも関心を持っているんですね?

僕も3人の子の親ですけど、糸島の子どもたちに、地域資源や環境の大切さを伝えたいという思いもあります。醤油づくりの際に出る「カス」も、産業廃棄物にせずに最大限利用しています。以前は養分が残っていない絞りカスは廃棄していたのですが、糸島で大豆を生産している農家・百笑屋に相談したところ、畑の堆肥として活用できることが分かりました。北伊醤油では今、大豆のほぼ全量を百笑屋から仕入れ、醤油づくりで出たカスは大豆畑に還すという循環の仕組みができています。蔵から出るごみは、家庭ごみよりも少ないというのが自慢です。

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

これから叶えたい夢はありますか?

地域の方々に120年も支えられてきた北伊醤油。やっぱり恩返しをしたいです。 地元の船越は、冬には期間限定でオープンするカキ小屋にたくさんの方が来られますけど、1年を通して、旅行者が楽しめる場所にしたいなと思っています。今思い描いているのは、船越の漁師さんとタックを組んで、「漁師めし」が食べられたり、魚の加工品が買えたりできる店をつくること。食事をした後は、うちの蔵に足を運んでもらい、醤油づくり体験をしてもらえたら最高です。船越は天然真鯛日本一の漁村です。ただその真鯛も、調味料とコラボしないとお客さんの口に入らない。だから、漁師と調味料の生産者が一緒に船越の魅力を発信するのは、互いにメリットしかないと信じています。美しい海と可也山の風景もあって、船越は観光地としても抜群のポテンシャルを持っています。「やっぱり糸島っていいよね」と思ってもらえるような空間づくりを、まずは、故郷の船越から実現させたいです。

Writer‘s comment

山上さんは現在、糸島の若手経済人の団体「糸島青年会議所」のトップを務めていて、家業の醤油蔵だけでなく、地元のビジネス支援にも取り組んでいます。カキ小屋にIT技術の導入を勧め、コロナ禍でも増収のカキ小屋も増えているそうです。醤油職人でもあり、ビジネスパーソンとしての顔ももつ山上さんが、地元・船越をどんな魅力的な町にしていくのか楽しみです。

Interview & Photos: Seiji Watanabe

Kohji Yamagami - Kitai Shoyu, 山上弘司 - 明治30年の創業から「本物」の醤油づくりを守る北伊醤油6代目

Category
Funakoshi - 船越エリア
Published: Oct 24, 2022 / Last Updated: Oct 24, 2022

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