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山本誠&山本和佳 – 野菜やトラキ

るさとの糸島で、土と仲間たちと生きる「農業目指す人の希望になれたら」

イキイキとした力強さを感じる野菜は無農薬栽培。
品揃えは、量も種類も季節や天候に応じて変わり、形の良し悪しだってあります。販売も毎日ではないけれど、彼らが作る野菜を心待ちにしている人がたくさんいます。

Itoshima Toraki’s organic vegetables 糸島の野菜やトラキの無農薬野菜

ナチュラルでサステイナブルな糸島カルチャーを共有するために、それぞれの背景にあるストーリーや活動を紹介するItoshima Now。人に焦点をあてた「People」コーナーでは、山・里・海のつながり、農と食のつながり、漁と食のつながり、地域で暮らす人と地域を訪れる人とのつながりなど、インタビューを通じて紹介します。

第一回目は、生産方法や、育てる種類などにこだわりをもつ個性的な農家が多い糸島においても、ユニークな存在として、食への関心が高い人から注目される「野菜やトラキ」の山本誠さんと和佳さん夫妻に話を伺いました。

おふたりが農業を始めたのは2014年。きっかけは何でしたか?

和佳さん:糸島は私の生まれ故郷で、結婚してから夫婦でここに住み始めたんです。畑もあって祖母がずっと家庭菜園をしていたんですけど、高齢でしんどくなったんでしょうね。ある日、まこさん(誠さん)に「畑やってみらんね?」って声掛けて。

誠さん:それまで自分は、造園会社の会社員でした。当時は30代後半だったかな。野菜を育てるのは初めてだったんですけど、せっかくなら無農薬でやってみようと。いろいろ調べながら、自分たちで食べる分くらいから作り始めました。

和佳さん:その野菜を友人たちに配ったら、すごく喜んでもらえて。それで、まこさんハマったよね。

Itoshima Toraki’s organic farmer Mr & Mrs Yamamoto 糸島で無農薬野菜、オーガニック野菜をつくる野菜やトラキの山本夫妻

誠さん:ハマったね(笑)。もともと職人気質なのかもしれません。やり始めたら夢中になる。振り返れば、当時の自分は、何か夢中になれるものを探していたのかもしれません。土いじりしながら、なんとなく心に浮かんでいたんです。人生80年とすればそろそろ折り返し。このままの生き方でいいのかなって。当時の仕事にも、少しモヤモヤした気持ちを抱えていました。エクステリアや庭を作る仕事だったんですけど、自分はお客さんの要望を聞いて設計して、庭師や左官の職人さんに指示する役割。でもね、歯がゆかったんですよ、自分が直接作れないってことが。お客さんが喜ぶものを、最初から最後まで自分で作れる仕事はないかなぁって、新しい何かを探してる自分もいたんです。そんないろいろが重なって40歳になったある日、「会社を辞めて専業農家になる」って家族に宣言しました。

Itoshima Toraki’s organic farmer Makoto Yamamoto 糸島で無農薬野菜、オーガニック野菜をつくる野菜やトラキの山本誠さん

初めての就農でしたが、どんなスタートでしたか?

和佳さん:私からすると、突然のことで頭が真っ白になったのを覚えています。子どもたちもまだ、小学4年生と1年生でしたから…。私は、出産前までは百貨店で働いていましたけど、産後はずっと専業主婦でしたからね。まこさんが脱サラした直後は、家計も気持ちもシューンって急降下ですよ。
ただ、農地はたくさんあったし、私も販売は好きだったから、少しずつイメージが沸いてきて。ロゴを決めて、こんな風にPRしたらいいね…って見えてきた。元職が化粧品販売員なので色の組み合わせも勉強していたから、野菜の見せ方も工夫できるなって思った。それで夫婦完全分業でやろうって決めて、とにかく走り続けてきた感じです。

Itoshima Toraki’s organic farmer Waka Yamamoto 糸島で無農薬野菜、オーガニック野菜をつくる野菜やトラキの山本和佳さん

誠さん:40歳過ぎて何の保障もない仕事に就いたし、ひたすらやるしかなかった。だけど、本当にありがたいことに、すぐにお客さんとつながれたんですよ。

和佳さん:そう。就農直後、すぐ近くの姫島渡船場に野菜の直売所ができたのもご縁でした。区長さんから「出してみらんね」って言われて、とんとん拍子で売り場デビューできたんです。思えば私たち、つくづくご縁に恵まれているなって思いますね。実は「トラキ」という屋号は、畑を残してくれた曽祖父の名前なんです。もしかしたら、私たちが「トラキさん」って呼ばれるのを喜んでくれて、こっそり応援してくれているのかもしれません(笑)。

Itoshima Toraki’s organic farmer Mr & Mrs Yamamoto 糸島で無農薬野菜、オーガニック野菜をつくる野菜やトラキの山本夫妻

これまで「壁」を感じた経験はありますか?

誠さん:大変なことはあった気もするけど…もう、夢中やったけんですね。記憶にないなぁ。

和佳さん:…ありますよ。私には「売れ残りがないようにしたい」って強い気持ちがあって。でも、最初のころは直売所で残っていたんですよ。それがどうしても嫌で。残ったときは、こっそり飲食店さんに営業してました。「お得にするので買ってくれませんか?」って。知人の店で軒下販売させてもらったこともありました。これ、まこさんには言ってなかったかもね。

誠さん:…知らなかった。

Itoshima Toraki’s organic farmer Mr & Mrs Yamamoto 糸島で無農薬野菜、オーガニック野菜をつくる野菜やトラキの山本夫妻

和佳さん:必死でした。「全部売れたよ!」って言いたくて。だって、育てる過程を全部見てきてるから。土づくり、種まき…と手塩にかけてきた経緯を思うと、売れ残らせるなんて、絶対にあり得なかったんです。私も就農して初めて知ったけど、種をまいても全部成長するわけではありません。台風とか虫、小動物とかにやられて半分以上が消えていく中、売り場に並ぶのは最終的に生き残った野菜たち。淡々と並べられているけど、シビアな状況を生き残ってきた本当に生命力ある野菜たちなんです。それを、全部売りたい。大切に食べてもらいたい。それは今も変わりません。

Itoshima Toraki’s organic vegetables 糸島の野菜やトラキの無農薬野菜

誠さん:今は育て方も改善して、種まきした8割くらいは販売できるようになったけど、無駄にしないように売り方も工夫したよね。

和佳さん:そう。形が整ってないものも「ぶさかわ野菜」って名付けて商品にしています。量がそろったときだけ、取りに来れる範囲のお得意さんにお得な価格でご案内するんです。すごく喜んでもらえてます。

誠さん:あと「スープにするからどんな形でも引き取るよ」って言ってくださるシェフの方もいます。

和佳さん:お付き合いが続いて信頼関係があるお客さんだから、安心して「ぶさかわ野菜」たちも販売できる。本当にありがたいなって思っています。

Itoshima Toraki’s organic vegetables at Toraki Root 糸島の野菜やトラキの直売所トラキルート

当初予想もしなかったようなできごとはありましたか?

誠さん:そうですね、びっくりしたのは、畑に足を運んでくれる食の専門家が多いことです。東京や大阪のような遠方からもわざわざ畑を見に来てくれる。有名店のシェフやパン屋の方とか。一緒に農作業することもあります。意識の高い方は、このオンラインの時代でもリアルな体験や出会いを求めているのかもしれませんね。食材の「向こう側」を直接知りたい、感じたいという思いなのかな。

和佳さん:メールでの問い合わせだけじゃなくて、自ら現場に足を運ぶシェフとは、本当に長く関係が続きます。やっぱり大切なのは、心だな、信頼関係だなって思います。この前は、立派な車でご一行様が来られたんですけど、後から聞くと、なんと世界一になったレストランの一流シェフだったそうで!本当に信じられない出会いでした。でも、もとをたどると福岡のお客さんから口伝でつながったご縁なんです。人のつながりってすごい。ありがたくて、感動します。

これからの夢を聞かせてください。

和佳さん:一番の願いは、大切に育てた野菜を大切に味わってもらうこと。だから、私たちの作業場を改装して、作り手と交流できる場所「トラキルート」を作りました。「ルート」は根っこという意味で、「トラキ野菜の拠点」「野菜を通して共感し合える関係が育つ場所」というふたつの思いを込めています。ゆっくり自分たちのペースでいいから、作り手と食べる人との交流の場を企画していくのが夢です。そしてもう一つ、これから農業を目指す人たちの希望になりたい。農業って、ひたすら作り続けるイメージがあるかもしれないけれど、私たちは本当にいろいろ素敵な経験をさせてもらっています。調理器具メーカーの動画撮影、野菜を使ったカレンダー作成、料理研究家の展示会にも出させていただいたこともあります。
「ひたすら畑に向き合うだけじゃない。野菜を通していろいろな可能性が広げられるんだ」って希望を持ってもらえたら嬉しいです。農業の世界は厳しい面もあるけど、夢を諦めそうな農家さんも「一緒にやろうよ」って引っ張っていけるような存在になれたらなって思います。

Itoshima Toraki’s organic vegetables 糸島の野菜やトラキの無農薬野菜を育てる山本夫妻

誠さん:今は、小さな循環型農業にもチャレンジしています。鶏を飼って卵を販売していますが、エサはトラキ野菜。フンは堆肥にして畑に戻しています。自分の手で一つ一つ生み出していく生き方に、今、心から納得できています。ペースはゆっくりでも、信頼できる仲間たちと一緒に、農業の可能性を広げていけたら幸せです。

Itoshima Toraki sell organic eggs, they use Toraki vegetables as chicken feed 糸島の野菜やトラキの無農薬野菜を食べて育つ鶏の卵

Writer’s Comment

取材の日、畑から見上げた空は青くて、ぽっかりと白い雲が浮かんでいました。脇の竹林から聞こえるサワサワという心地よい音。耳を澄ましていたら、和佳さんの一言が思い出されました。「農業をして初めて、夫婦になった気がする」。二人三脚で走り続けてきた誠さんと和佳さん。一緒に野菜や人との出会いを大切にしてきた分、お互いへの尊敬と信頼も増したのだろうと思いました。トラキ野菜のおいしさの〝隠し味〟かもしれません。

Interview: Leyla / Photos: Seiji Watanabe

Itoshima Toraki’s organic vegetables 糸島の野菜やトラキの無農薬野菜と山本誠、和佳夫妻

Category
Kishi - 岐志エリア
Published: Apr 15, 2022 / Last Updated: Apr 15, 2022

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