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野口智美 – 糸島の「いいモノ」を全国に発信

島市で雑貨店「糸島くらし×ここのき」を経営する野口智美さんは、糸島が全国的に注目を集める前から、糸島の「いいモノ」を外に向けて発信してきました。木工作家や陶芸家を販売面で支え、「クラフトのまち・糸島」の礎を築いたひとりです。

ここのきが2010年にオープンして10年以上が経ちました。なぜお店を始めようと思ったのですか?

きっかけは、新聞で「日本の山が荒廃して、林業が成り立たない」という内容の記事を見かけたことなんです。ちょうどその頃、糸島市にある地元木材を使った木工体験施設・トンカチ館にボランティアスタッフとして通っていたので、山の深刻な状況をいろんな人から聞いていました。木工の仕事を手伝ったり、実際に山に入ってチェーンソーで木の伐採を経験したりしているうちに、「林業をどうにかしないといけない」という思いが強くなったんです。

地元の人が地元の木材を使用すれば、循環が生まれて、地元の山も元気になるんじゃないか。そう思って、糸島産の杉の板や木工作品を、身近に買えるような場所をつくろうと、オープンしたのがここのきです。

ここのきのスタートは順調でしたか?

資金も知名度もない崖っぷちからのスタートでした。当時、3人の幼い子を抱えて家賃のいらない母子寮に住んでいたんですけど、「お店ができるのなら稼いでいる証拠」だからと、追い出されてしまいました。ここのきをオープンさせるために貯金も使い果たしちゃったし、生活は苦しかったです。親からも「お店なんてやってる場合じゃないでしょ」と反対されていました。売上が1日数千円の日も続きました。

逆境の中からどうやって、ここのきを続けてこられたんでしょうか?

作家さんたちに助けられて、お店を続けられています。オープン時は5~6人の木工作家やドレッシングの製造者との付き合いがありました。商品を売るための常設のギャラリーを持たない人も多くて「ここのきがなくなると困る」と、お店の内装工事から知名度拡大に至るまで、一緒にお店を支えてくれたんです。みんな私と年齢が近くて気が合ったのも大きかったです。

当時はオーガニックコットンのタオルを扱う取引先であり、今はパートナーとして、ここのきを運営してくれている千々岩哲郎さんは、福岡市の大手百貨店から「糸島展」への出店依頼を持ってきてくれました。これは知名度アップの大きなきっかけになりました。このイベント出展は、仲間で商品のディスプレイをつくったり、店番を交代でやったりして、まるで学園祭のような熱気でした。駆け出しの作家さんもいたので、何とか商品を売り込もうとみんな必死だったんです。そこから、別の百貨店やショッピングモールでのイベント出店につながったりして、ここのきが多くの方に知られるようになりました。今は約70件の糸島のつくり手の商品を扱っています。

今やここのきが糸島の「いいモノ」を発信する最善基地として、糸島ブームを支えていると思います。

私からすれば、むしろ、ここのきが、糸島ブームに支えられている代表格だと思います。ただ、この10年で糸島の知名度がぐんと上がり、全国的に有名になった仲間の木工作家や陶芸家もいます。うちのお店も一役買えているのかなあ、と思うと嬉しいです。

「ここのきがあるから、作品づくりをやっていける」と言ってくれる人もいますし、私たちのお店があることで、作家さんの生活が安定してきているのだとしたら、本当に続けてきてよかったと思います。作家さんたちって、好きなことをして暮らしていると思うんです。そんなの夢物語だっていう人もいるでしょうが、全然夢じゃないです。私自身、母子家庭で資金も人脈もないなかでお店を立ち上げていますし、「野口さんを見て、起業しようと思った」という方もいます。好きなことをやりたい人たちの支えになれているとしたら、こんな幸せなことはありません。

そんな野口さんの夢はなんですか?

ここのき誕生の原点でもある、糸島産の木材を多くの地元の人たちに使ってもらうことです。木材の加工場を借りて、私も杉板をつくって販売しています。ただ、糸島産の木材を加工するのも、売るのも、うちのお店じゃなくてもいいんです。むしろ、もっと大きな売り場があるところの方がいいと思っています。最終的に、糸島のホームセンターに糸島材のコーナーが出来て、地元の人が地元の木材を使う「地産地消」の流れができたら、糸島の山も、林業も元気になっていくでしょうし、最高です!

Writer‘s comment

私が野口さんと初めて会ったのは糸島に移住した2011年です。彼女は福岡市のショッピングモールで開催されていたイベントに出店中でした。これからの糸島生活のことを相談しているうちに、地域の木工作家や飲食店主らが集う会に招待してもらいました。その会のおかげでたくさんの人脈ができ、糸島暮らしが一気に楽しくなったことを記憶しています。駆け出しの写真家のころ、仕事を持ってきてくれたのも野口さんでした。様々な分野の人たちが身近につながり、そのつながりを大事にしながら支え合って生きていく。まさに糸島の良さを体現しているのが、野口さんだと思います。

Interview & Photos: Seiji Watanabe

Category
Maebaru - 前原エリア
Published: Mar 10, 2023 / Last Updated: Mar 10, 2023

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